大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)4419号 判決 1997年5月14日

原告

永森美香

被告

上田恵理

ほか一名

主文

一  被告上田恵理は、原告に対し、金五五万九八五〇円及びこれに対する平成八年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告上田恵理に対するその余の請求及び被告榊原直美に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告上田恵理の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金一〇〇万九八五〇円及びこれに対する平成八年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、他の車両との衝突事故によつて損傷した車両の所有者が、民法七〇九条により、事故の相手方車両の運転者及び所有者に対し損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

被告上田恵理は、平成八年六月二八日午後一一時五〇分ころ、被告榊原直美所有の車両(以下「被告車」という。)を運転して、名古屋市千種区今池一丁目一〇番一号先の名古屋市環状線を走行中、前方の注視義務を怠り、田中伸一運転の原告所有車両(以下「原告車」という。)に被告車を追突させた。

2  被告上田の責任

被告上田は、被告車の運転者として、自車の走行に際しては前方を注視する義務があるにもかかわらず、これを怠り、よつて原告車に被告車を追突させたものであるから、民法七〇九条により、右追突によつて原告車に生じた損害を賠償する義務を負う。

3  原告の損害

原告は、原告車の修理代四三万六七二〇円、代車料七万三一三〇円の損害を被つた。

4  原告車は、平成七年五月三一日に初度登録をした。

二  争点

1  被告榊原の責任

原告は、被告榊原は被告車の所有者であるが、本件事故の時は飲酒後であつたために被告上田に被告車を運転させ、自らも同乗していたものであるから、被告上田に運転上の注意義務を尽くさせるように努める義務があるところ、これを怠り被告上田をして本件事故を起こさせたものであるから、被告榊原も民法七〇九条により原告の損害を賠償する義務がある旨主張し、被告榊原は、右主張を争う。

2  過失相殺

被告らは、本件事故は、渋滞のために被告車が徐行している間に前車との間に出来た間隙に田中の運転する原告車が割り込んだために発生したものであるから、過失相殺すべきである旨主張し、原告は、右主張を争う。

3  原告車の価値下落による損害及び弁護士費用相当損害

原告は、原告車の修理代及び代車料のほか、原告車の評価損三〇万円及び弁護士費用二〇万円の損害を被つた旨主張し、被告らは、右主張を争う。

第三争点に対する判断

一  争点1について

被告榊原が被告車の所有者であり、本件事故当時、直前に飲酒したために被告車の運転を被告上田に委ね、自らは被告車に同乗していたからといつて、そのことの故に、被告榊原が本件事故につき不法行為責任を負うといういわれはない。そして、他に被告榊原が右不法行為責任を負うことを認めるに足りる証拠はない。

二  争点2について

1  証拠(甲二、五、六の1ないし4、七、乙一、五、証人田中伸一、被告上田)によれば、次の事実が認められる。

(一) 田中は、原告車を運転して、名古屋市環状線と広小路通との交差点(今池交差点)を南から西に左折する予定で、同環状線の三車線ある北進車線のうちの最左端の第一車線を進行した。

名古屋市環状線の北進車線は、今池交差点に向かつて第二車線と第三車線が渋滞していた。

(二) 田中が右第一車線を北進して今池交差点に接近するに従い、同車線は道路端の駐車車両が障害となつて通行が困難となつたため、田中は、第一車線から第二車線に進路を変更すべく、その機会を窺いながら進行したところ、第二車線において渋滞のために停止していた被告車とその先行車であるタンクローリー車との間が広く開いていたので、田中は、被告車の前方に進入することとし、一旦停止して右折のウインカーを点滅させた上、第一車線から第二車線の被告車の前方に進入した。

(三) 田中は、第二車線への進入を完了して、タンクローリー車の後ろに原告車を停止させ、前進を開始したタンクローリー車に続いて原告車を発進させたが、タンクローリー車はすぐに停止したので、田中も原告車を停止させ、タンクローリー車が再び発進したのに続いて原告車を発進させようとしたところ、被告車に追突された。

(四) 被告上田は、今池交差点を右折する予定であつたので、第二車線から第三車線に車線変更をすべく、被告車のドアミラーによつて何度も第三車線の状況に注意を払いながら進行していたため、前方に対する注意を疎かにしており、原告車が第一車線から第二車線に進入するところを見ておらず、原告車に追突する寸前まで同車が被告車の前方に進入したことに気が付いていなかつた。

被告上田本人尋問の結果中には、本件事故の原因は原告車が被告車の前に無理な割込みをしたことにあるという趣旨の供述があるが、右のとおり、被告上田は、第三車線の状況に注意を奪われ、原告車の動きを全く見ていなかつたのであるから、右供述は到底信用することができない。

2  右によれば、田中が原告車を第一車線から第二車線に進入させるにつき、同人に過失があつたものということはできず、本件事故は、被告上田の全面的な過失によつて惹起されたものというべきであるから、被告らの過失相殺の主張は失当である。

三  争点3について

原告車は、前記のとおり、本件事故の日より一年以上前の平成七年五月三一日に初度登録をした車両であり、証拠(甲二、乙六)によれば、その車種は総排気量一・三三リツトルの小型乗用車(トヨタカローラⅡ)であり、本件事故までに走行距離は一万二二五四キロメートルに達していたことが認められるから、甲第四号証によつては、未だ原告車に評価損が発生したことを認めるに足りず、他に右評価損の発生を認めるに足りる証拠はない。

四  弁護士費用

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、五万円と認めるのが相当である。

五  以上によれば、原告の本訴請求は、被告上田に対し、五五万九八五〇円及びこれに対する不法行為の日の翌日の平成八年六月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

(裁判官 大谷禎男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例